T8krgUSABbOXRjI2p 孤独死のあとに残ったもの | 託された知恵を、次の誰かへ

孤独死のあとに残ったもの

― 誰も触れられない家をつくらないために

Cさんは、持ち家で一人暮らしをしていました。

国立大学を卒業し、しっかりとした仕事にも就いていました。
父親も東京大学を卒業した人で、Cさんは一人っ子として厳しく育てられました。

周囲から見れば、立派な学歴と仕事を持った人です。

けれど、本人の口から出てくる言葉は違いました。

「父親に認めてもらえなかった」

そんな思いを抱え、自己嫌悪を感じながら生きてきたといいます。

人付き合いもあまり得意ではなく、周囲に馴染めないところもありました。

それでも、足元が少し不安定になりながらも、一人で食事に出かけることはありました。

ある日、救急病院から連絡が入りました。

Cさんが昼食を食べに入った寿司店で、食べ物を喉に詰まらせ、窒息状態になって救急搬送されたというのです。

幸い意識はありましたが、大事をとって入院することになりました。

この出来事が一つのきっかけになりました。

それまで介護の支援を受けることに抵抗があったCさんでしたが、自分一人では難しいことがあると感じるようになり、介護認定を受け、少しずつ支援を受け入れるようになりました。

自宅には介護ベッドが置かれ、トイレまで歩くことも難しくなったため、ポータブルトイレも設置されました。

ヘルパーさんが入り、デイサービスにも週2回通うようになりました。

施設への入居も検討しました。

しかし、Cさんには「最後まで自宅で暮らしたい」という強い思いがありました。

その気持ちは尊重され、自宅で生活を続けていました。


「もしものとき」を考えていた

Cさんは一人っ子で、結婚もしていませんでした。

そのため、相続についても大きな問題がありました。

そこで、公正証書による遺言を作成することを勧め、準備を進めていました。

実は以前にも遺言を作ったことがありました。

そのときは、親しい友人に財産を渡す約束をしていたのです。

ところが、その友人が先に亡くなってしまいました。

その後、誰に財産を遺すのかがなかなか決まらず、遺言を作り直すことができないまま時間が過ぎていきました。

Cさん自身も、「もし自分に何かあったら」ということを心配していました。

相続人がいない場合、

  • 自宅を誰が管理するのか
  • 通帳や現金などを誰が受け取るのか
  • 亡くなった後の支払いを誰がするのか
  • 家財をどうするのか
  • 希望していた納骨先に遺骨を納められるのか

さまざまな問題が残ります。

Cさんと私たちは、その「もしものとき」を心配しながら話をしていました。

しかし、その心配していたことが、現実になってしまいました。


ある日、連絡が取れなくなった

デイサービスの職員が、いつものようにCさんの自宅を訪問しました。

声をかけても返事がありません。

電話をしても出ません。

その日は、「外出しているのかもしれない」と考え、それ以上の確認をしなかったようです。

翌日、もう一度訪問しました。

しかし、やはり反応がありません。

そこで私たちにも連絡が入りました。

Cさんから信頼していただいていたこともあり、私たちは自宅の鍵の場所を教えてもらっていました。

デイサービスの方と一緒に玄関を開け、中に入りました。

すると、介護ベッドの横にCさんが倒れていました。

呼びかけても反応はありません。

救急に連絡しましたが、すでに亡くなっている可能性が高いとのことでした。

その後、警察が来ることになりました。

事件性がないことが確認され、医師による死亡確認が行われました。

そして警察の手続きの中で、通帳や現金などの金品、自宅の鍵、そして遺体が引き取られていきました。

私たちは第一発見者として、その後、長い事情聴取を受けることになりました。


「亡くなった後」には、もう一つの問題がある

人が亡くなると、財産の問題だけではありません。

大きく分けて考えると、亡くなった後に残されるものには、

①プラスの財産
預貯金、現金、不動産など。

②マイナスの財産
借金、未払いの費用、その他の債務など。

そしてもう一つ、

③祭祀に関するもの
遺骨やお墓、納骨など、亡くなった方をどう供養するのかという問題があります。

つまり、亡くなった後に残るのは「お金」だけではありません。

遺体や遺骨を誰が引き取り、どこに納めるのか。

そして、

家や財産を誰が引き継ぎ、管理するのか。

これも非常に大きな問題になります。


相続人がいなければ、誰が受け取るのか

法律上、相続人には順位があります。

原則として、配偶者や子が第一順位。

子がいない場合などには、親などの直系尊属。

さらにそれらもいない場合には、兄弟姉妹、そしてその子である甥・姪へと相続の順位が移ります。

それでも相続人がいなければ、財産を受け取る人が自動的に決まるわけではありません。

相続人がいないCさんの場合、遺言があれば、遺言に基づいて財産を受け取る人を指定することができました。

しかし、その遺言が完成していませんでした。

そのため、亡くなった後の手続きは簡単ではありません。

警察が親族などを調べ、それでも引き取り手がいない場合には、行政などが関わることになります。

財産についても、相続財産清算人などを通じて整理されることになります。

しかし、それには時間も手続きも必要です。

そして、その間にも家はそこに残り続けます。


誰も触れられない家

Cさんが亡くなってから、何年か経ちました。

それでも、その家は残っています。

庭には草が生えています。

しかし、誰も簡単には手を入れることができません。

持ち家であっても、亡くなった本人がいなくなれば、勝手に処分したり、財産を動かしたりすることはできません。

相続や財産管理の手続きが必要だからです。

その結果、

「人が亡くなった家なのに、誰も触ることができない」

という状態が生まれてしまうことがあります。

家は少しずつ傷んでいきます。

庭は荒れていきます。

瓦が落ちたり、建物が傷んだりすることもあります。

場合によっては、不法に人が入り込むようなこともあります。

そうなれば、そこに住む近隣の方々にとっても不安な存在になってしまいます。


孤独死だけが問題ではない

これは孤独死に限った話ではありません。

病院や施設で亡くなる場合には、関係者がいるため、死亡後の手続きが進みやすいことがあります。

一方、自宅で一人で暮らしている場合には、

「亡くなったことを誰が届けるのか」

という問題も起こります。

死亡届は、誰でも自由に提出できるわけではありません。

身寄りがない方の場合、こうしたところにも難しさがあります。


「一人で生きる」と「誰にも頼らない」は違う

Cさんは、最後まで自分の家で暮らすことを望みました。

その思いは、大切にされるべきものだと思います。

できる限り自分らしく生きる。

住み慣れた家で暮らす。

誰かに人生を決められるのではなく、自分で決める。

それは、とても大切なことです。

でも、

「一人で生きる」ことと、「誰にも頼らない」ことは違います。

生きている間は、自分の意思で決めることができます。

しかし、亡くなった瞬間から、自分自身で手続きをすることはできなくなります。

だからこそ、生きているうちに、

「もし自分が亡くなったら、誰に何を託すのか」

を考えておく必要があります。


「誰も触れられない家」をつくらないために

相続人がいない方にとって、遺言は単に「財産を誰にあげるか」を決めるためだけのものではありません。

自分が亡くなった後に、

誰に財産を託すのか。

誰に手続きをしてもらうのか。

遺体や遺骨をどうしてほしいのか。

どこに納骨してほしいのか。

家をどうするのか。

そして、自分が大切にしてきたものをどうしてほしいのか。

そうした「最後の意思」を、残された人に伝えるためのものでもあります。

そして、遺言を作るだけではなく、

「遺言を作ったことを、誰かが知っている」

ことも大切です。

せっかく遺言を作っても、その存在を誰も知らなければ、見つけてもらえない可能性があります。

また、亡くなった後に実際に動いてくれる人や専門家、必要な契約などについても、生前から準備しておくことが重要です。


最後に残ったもの

Cさんは、生きている間に「もしものとき」を心配していました。

けれど、その準備を終える前に亡くなってしまいました。

そして今も、Cさんの家は残っています。

誰も住んでいない家。

草が伸びている家。

誰も簡単には手をつけられない家。

それを見ると、私たちは考えさせられます。

人生をどう生きるかは、自分で決めたい。

できるだけ人に迷惑をかけたくない。

最後まで自分らしくいたい。

その気持ちは、誰にでもあると思います。

だからこそ、

自分で気づき、自分で準備することも、一つの責任なのかもしれません。

「死んだ後のことまで考えたくない」

そう思うのも当然です。

でも、考えなかったからといって、問題がなくなるわけではありません。

むしろ、考えないまま亡くなったとき、

その問題を背負うのは、残された誰かです。

Cさんのことを大切に思って関わってきた私たちも、最後に残った家を見るたびに、複雑な気持ちになります。

だからこそ伝えたい。

一人で生きることは、誰にも頼らないことではない。

そして、

自分がいなくなった後も、誰かが困らないように準備しておくこと。

それもまた、自分らしく生きるための大切な準備なのだと思います。

「遺体・遺骨を含め、最後まで誰かに引き継いでもらう。」

「自分がいなくなった後、誰も触れられない家を残さない。」

この二つを、私たちはもっと考えていく必要があるのではないでしょうか。

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